「センチメンタル・バリュー」は、「家族とは」という永遠の問いを描いた、2027年の公開作の中でも、とても力強い傑作。
このブログでは、観終わった後でもじわじわと心に残り続ける、その理由について語ってみたいと思います。
目次
「センチメンタル・バリュー」
オスロで俳優として活躍するノーラと、家庭を選び息子と夫と穏やかに暮らす妹アグネス。そこへ幼い頃に家族を捨てて以来、長らく音信不通だった映画監督の父・グスタヴが現れる。自身15年ぶりの復帰作となる新作映画の主演をノーラに依頼するためだった。怒りと失望をいまだ抱えるノーラは、その申し出をきっぱりと拒絶する。ほどなくして、代役にはアメリカの人気若手スター、レイチェルが抜擢。さらに撮影場所がかつて家族で暮らしていた思い出の実家であることを知り、ノーラの心に再び抑えきれない感情が芽生えていく──。
引用:映画「センチメンタル・バリュー」公式サイトより
日本では2022年に公開されて評判を呼んだ「わたしは最悪。」で、一躍世界の映画界でもトップ監督の一人に名が上がるようになった監督ヨアキム・トリアー。彼の最新作で、2025年のカンヌ国際映画祭では見事グランプリを獲得した今作。アカデミー賞でも多数のノミネートを獲得し、さらなる傑作として話題になりました。
主演は前作から引き続き、レナーテ・レインスヴェ。そして彼の父親役にステラン・スカルスガルドという組み合わせ。この二人の演技と共に、インガ・イブスドッテル・リッレオースとエル・ファニングという女優二人もアカデミー賞の演技賞にそれぞれノミネートされるという快挙。どんな作品なのかますます期待が高まりながら、映画館に向かいました。
早速感想を書いてみたいと思います♪
※ここから先は思いっきりネタバレしていますので、結末をお知りになりたくない方はご注意ください。
多面的なテーマのある映画だけどやっぱり一番は、、、
この作品は予告を見ていると「父と娘」の映画なのかな、と思っていたのですが、「実は思ったよりもいろいろなテーマが入った作品だったんだ」と鑑賞してわかりました。
- 家族
- 家
- 映画製作
- 国の歴史
- トラウマ
- 老い
ざっと思い浮かんだだけでもこんな感じで、もっと掘っていくといろいろと出てくると思います。なので、他の方の感想を見ていると、少しずつ角度やトーンが違うのが面白いです。でも、共通している感想は「素晴らしい作品」ということ。私もやっぱりそう思いました。
ただ、これだけたくさんのテーマがあっても、やっぱり私は「この映画では『家族』を描きたかったのでは」と思いました。複雑に絡み合った家族の関係をこれほど正面から描いた映画で、役者の演技はもちろん、繊細な台詞やカット一つ一つがとても生きた作品になっていると思います。
主要4人の演技がそれぞれ素晴らしい!
この映画は父と娘二人、そして父の映画に主演する女優の主に4人が登場人物。その4人の演技が、この映画の肝にもなっています。
特に主演の長女を演じたレナーテ・レインスベと父を演じたステラン・スカルスガルドは、この二人の関係性が映画の筋なので、二人とも凄い演技力を発揮しています。決して派手だったり力が入っているという演技ではないのですが、「この役のために最大限の演技をしているな」と映画全体から伝わる、圧巻の演技でした。
特にステラン・スカルスガルドは「もうありとあらゆる映画に出ている」と言いたくなるくらいの多作な映画俳優ですが。この作品ではグスタヴという巨匠となった映画監督の誠実さや仕事ぶりと、父親としてのダメさぶりの共存をとても説得力ある演技で魅せていきます。顔の表情一つで語るような、その佇まい。今まで出演してきた作品を忘れさせるようななりきりでした。
対するレナーテは「私は最悪。」の役と少しだけ繋がるような役で、前作も少し思い出しながら鑑賞したのですが。トリアー監督が彼女をとても信頼している理由が、この作品でさらに分かったような気がします。演じるノーラは内面的にはとても大きな葛藤を抱えていて、生きているだけで精一杯というような状態なのに、どこか儚くて、強さもあるような。とても美しい女性で、線も細い女性なのですが、芯があって瑞々しさも感じる魅力もあって。
その父と長女の間にいるような妹アグネスを演じるインガ・イブスドッテル・リッレオースの演技も秀逸でした。対立する父と姉を静かに見つめながら、自分は自分の家庭や道を築いてきた女性。姉の不安定さを見つめつつ、父親の勝手さに姉ほどは距離を置かずにいられる。彼女がいるからこそ、ギリギリ家族でいられたような。そして、父の脚本を読んで姉に必死に伝える、、、。実は物語を進めるとても重要な役ですが、決して出すぎずまさに「助演」という役割をしっかりと演じていました。
憧れの巨匠の作品に主演するために必死に頑張るハリウッドスターであるレイチェルを演じたのはエル・ファニング。ぶっちゃけ私は「本人そのまま」みたいに見えてしまったのですが(笑)、それでもこの作品で嫌味なく映画のために身を投じ、必死に監督の求める演技をしようとする姿、そしてラストにはグスタヴの本当に求めていることに気づいて、ちゃんとそれを本人に伝えるという。なんていい子なんだ!個人的には「彼女だけリアリティが薄かったな」と感じるくらい(笑)。でも実はトリアー監督も同じような体験があったのかもしれませんね。アカデミー賞ノミネートまでは正直「どうかな?」とは思いましたが、映画に欠かせない重要な役だし、彼女の存在でさらに作品の透明感が増したような、エルちゃんだからこその役かも。
いろんな視点で観れる作品 だからこそ愛される
先にも書いたのですが、この作品は鑑賞した人がそれぞれ思い入れる部分や役が、ちょっとずつ違いそうなところが面白いですよね。父のグスタヴや長女のノーラはもちろん、妹のアグネスに感情移入する人もいると思います。
また、映画製作の背景に思いを持つ人もいると思います。国を代表する巨匠の新作ですら、今やハリウッド人気スターの主演でなければ制作する資金繰りが難しく、提供するのはNetflix。劇場公開が当然と思っているグスタヴがインタニューでスタッフから「まだ分からないかも」と言われるあたりの現状とのリアリティのあたり。
そして、「家」が持つ家族の歴史や秘密。これについても思いがある人もいるのでは。もちろん家族との関係性もありますが、その空間やものがあるからこそ感じたりする独特の感情。安心したり逃げたくなったり。
個人的には、私は姉妹二人の絆がこの映画で一番心を掴まれたところでした。私にも妹がいて、境遇が似ているからだと思います。私の両親も幼いころから不仲で、夫婦喧嘩の際は部屋で二人ずっと待っているみたいな。この映画に限らずよくあるシーンだけど、そういう体験で築かれる絆ってやっぱりあって。ノーラがアグネスに説得されて、やっと父の脚本を読み、そのあとベッドで二人語り合って抱き合うシーンは涙なしでは観られませんでした。
傑作だけれどアカデミー賞には向かないかも やっぱり愛されやすいのは
傑作だとは思うのですが、個人的に気になったところとしては、ノーラは舞台女優なのですが舞台恐怖症。冒頭に彼女がバックステージから舞台に立つまでの行動がまあひどくて(笑)。「共演者怒んないのかな」とかちょっと思ってしまいました。ノーラの不安定さを表すシーンだったとは思うのですが。
あと、この作品は父娘間の関係が大きなテーマではあるのですが、母の存在感がなく、そこは断片はあるもののしっかり描かれなかったのが。あとアグネスの夫の存在もとても薄い。家族って他者と作るものでもあるのに。そこらへんは、ちょっと個人的に物足りなさはありました。「意外と血の話でもあったのかな」と。
近年、アカデミー賞は他の国の映画賞を受賞した作品がそのまま作品賞になるパターンもありますが、個人的にはこの作品はアカデミー賞というよりは、やっぱりカンヌやヨーロッパの映画祭あたりで愛される作品なのかな、と感じました。セリフの言語だけではなくて、その佇まいや映像の映り方、トリアー監督の持つスタイルから受ける印象ですが。そして、日本でもとても愛されやすいだろうな、と。「私は最悪。」でも思っていたのですが、今作でよりそう思いました。
鑑賞後、「この作品は数日、数か月、数年経っても余韻が残りそうだ」と感じながら帰ってきました。そして、作品を見てから数日経っても、あっぱり「あのシーンのあの時が、、、」と心に浮かんでは消えるような時を過ごしています。
というわけで、気になった方はぜひ観てみてください♪

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